心の健康相談を受けてみる
私が住んでいた自治体には、
「心の健康相談」
というサービスがありました。
現役の精神科医が、
心に不安を抱えている人の相談に、
無料で乗ってくれるという、
自治体のサービスの一つです。
私は、この相談を受けてみることにしました。
ひきこもりから脱却するために会っている支援者の方々と、
目を見てまともに話せないことや、
24年もの間、家族以外と関わってこなかったことで、
他人から見た私は、
「変な人」
に見えないかという不安がありました。
また、自分に対して何もしたくない、
いわゆるセルフネグレクトや、
うつ状態が続いていたこともあったからです。
精神科医を待つ
当日、自治体の窓口へ行き、
心の健康相談を予約していることを伝えると、
窓口から少し離れた場所にある部屋へ案内されました。
そこで、医師が来るのを待つことに。
しばらくすると、
一人の高齢の男性が部屋に入ってきました。
ヨレヨレのチェック柄のシャツに、シワだらけのチノパン。
生気がなく、
どこか疲れているようにも見えました。
私は、その人も心の悩みを抱えて相談に来た人なのだと思いました。
その人は何も言わずに、私の向かいのソファへ座りました。
この部屋は、
心の健康相談を希望する人が一旦集まり、
順番に別の部屋へ移動して相談するための待合室なのだろう、
そんなふうに私は考えていました。
ところが、何分待っても医師が来ません。
到着が遅れているのかなと思いながら、
私は家から持ってきたメモを取り出しました。
うまく話せないと思ったので、
相談したいことを事前に書いてきたのです。
すると、
向かいに座っていた男性が、
聞き取れないほど小さな声で何かを言いました。
聞き返すと、
「何を相談したいのか」
と言っているようでした。
ーーそこで、ようやく気づきました。
この男性が、精神科医だったのです。
相談者だと思っていた人が、
まさか医師だったとは……
少しの間、混乱した頭の中を整理する必要がありました。
医師のふりをしている相談者の可能性はないか?
そんなことまで考えました。
しかし、ドアの方を見ても、
誰も来る気配はないし、予約した時間は過ぎていました。
どうやら、
本当にこの男性が今回相談する医師のようです。
私は持ってきたメモを読みながら話そうとしましたが、
動揺して声が出づらくなり、
「うまく話せないと思ったので、メモに今までのことをまとめて来ました。読んでもらえますか?よろしくお願いします」
そう伝えました。
医師は、特に返事をすることもなく、
メモに目を通しました。
ほんの少し見ただけでした。
あんなに一生懸命書いてきたのに、
じっくり読んではもらえないのかと、
がっかりしました。
それでも、
せっかくここまで来たのだから、
もっと相談したいと思いました。
ところが、医師の声がとても小さく、
何を話しているのか聞き取りにくく、
困ってしまいました。
医師から、
「こんなの書いてきても。見た限り、病気という感じもしない。病院に行ってもしょうがない」
そのようなことを言われました。
「病院に行ってもしょうがない」
私は、メモを書いてきたことを後悔しました。
自分の症状をきちんと伝えようと思って、
できるだけ分かりやすくまとめたつもりでした。
でも、まとめすぎて、辛いことを省いたりして、結果、症状を軽く書いてしまっていました。
医師に、「病院に行ってもしょうがない」と言われたことで、
私はショックを受けました。
本当の辛さを伝えなければと思いました。
けれど、いざ話そうとすると、
言葉が出てきません。
話したいのに、
言葉に詰まってしまいました。
伝えたいのに、言葉が出てこない
初めて精神科医に相談したのに、
自分の辛さを伝えきれなかった。
今思うと、
私は、今までの生き辛さを全部話せば、
精神科医なら受け止めてくれると思っていたのだと思います。
そして、
自分が少しでも楽になることを期待していたのでしょう。
そんなふうに思っていた私は、
どうしていいかわからなくなってしまいました。
でも、そのことに気づく様子もなく、医師は、
「もういいね」
と言って、部屋を出ていきました。
私は、すぐにソファから立ち上がることができませんでした。
悔しくて、涙
うまく伝えることができなかった悔しさ。
そして、
病院へ行くほどではないと言われたことで、
今までの苦しさを軽く受け取られたような気がしました。
涙が出てきました。
泣きながら座っていると、
最初に窓口で案内してくれた職員の方が部屋に入ってきました。
そして、私をソファから立たせてくれました。
「落ち着くまで、こちらに座っておられたらいいですよ」
そう言って、部屋の外にある、
たくさんの椅子が並んでいる場所へ案内してくれました。
医師とは違い、
その職員の方は優しく声をかけてくれました。
その優しさに、
また涙が出ました。
でも、そこは自治体の施設です。
周りには、
他の手続きに来ている人もたくさんいました。
少し落ち着いてから、
他の人がいる前で泣いていたことが恥ずかしくなりました。
私は、その場から逃げるように家へ帰りました。
初めて精神科医に相談した日は、
私にとって、辛い一日になりました。
それでも、精神科を受診してみようと思った
ところが、
その日の出来事は、
私の気持ちを別の方向へ動かすことになります。
今回、
相談した医師からは、
病院へ行ってもしょうがないと言われました。
それなのに私は、
「やっぱり精神科を受診してみよう」
と思うようになったのです。
自分の辛さを分かってもらえなかったからこそ、
きちんと診てもらいたいと思うようになりました。
他の精神科医も同じように、
「病院にかかるほどではない」
と言うのか、
確かめたい気持ちもありました。
そして、
ここから、長い主治医探しが始まることになるのですーー
この記事の後記や、ここでは書ききれなかったことをメッセージサービス【OFUSE】に綴っています。
興味のある方はご覧ください。
